理事長挨拶

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理事長
石川 文保

 当財団は、豊かな健康社会の建設を希求して腸内フローラに関する科学技術の振興を図ることを目的に、1992年(平成4年)2月に初代理事長・故桑原潤氏の発案により財団法人として設立され、株式会社ヤクルト本社ならびにヤクルトグループの方々からの大きな支援を受けながら運営され、また2012年(平成24年)には公益財団法人に移行され今日に至っています。

 当財団の目的を達成するために、毎年度、腸内フローラを主体としたバイオサイエンスに関して、@調査研究および助成に関する事業、A国際交流の推進および援助に関する事業、B普及と啓発に関する事業などを行っています。特に研究助成では、腸内フローラの萌芽的研究への比重を高くすることにより、将来の腸内フローラ研究の発展や若手研究者の育成も意図しています。また普及活動の中心は毎年秋季に開催される「腸内フローラシンポジウム」であり、毎回大変多くの方々から好評をいただいております。このシンポジウムの歴史は古く、1980年(昭和55年)に理化学研究所主催で開催されたのを皮切りに12回続いた後、1992年(平成4年)より当財団が引き継ぎ毎年開催してまいりました。2021年(令和3年)は新型コロナウィルス感染拡大による中止を余儀なくされましたが、2022年(令和4年)には対面形式にて通算42回目のシンポジウムが開催され多くの皆様に大変喜んでいただけました。今後も当財団は上記の各事業を継続発展させてまいります。

 今でこそ「腸内フローラ」や「プロバイオティクス」は、日常会話でも広く使用されている言葉ですが、当財団発足の頃は、先進的な研究者がその重要性を理解し、従来の優れた培養技術に加えて、培養を必要としない16S rRNA遺伝子配列による腸内フローラの菌種同定を精力的に試みている状況でした。その後網羅的な16S rRNA遺伝子解析法が開発されると、腸内フローラ全容解明の機運が高まり、世界中の研究者が次々と参入し、興味深い知見が蓄積されるようになりました。さらに次世代シークエンサーの登場により、メタゲノム解析での探究の範囲が大幅に広がり、現在では腸内フローラ研究は生命科学のメジャーな研究領域にまで発展しています。これまでに得られた腸内フローラに関する膨大なデータの解析から、暗黒大陸であった腸内フローラの構造と機能が徐々に明らかになり、私たちは一人ひとり異なる腸内フローラを持ちその乱れが多くの疾病と関連すること、しかも腸内フローラそのものが「ひとつの臓器」として全身の臓器とネットワークを構築し、宿主の生体機能に影響することが分かってきました。近い将来、健康や病気と腸内フローラの因果関係の解明、効果的な腸内フローラ制御法の開発などを通して、理想的な個別化医療や予防医学が確立していくものと期待しています。

 「健全な腸内フローラを維持して、長く健康を保ち寿命を全うする」。今や腸内フローラを抜きにして、私たちの健康は考えられない時代になりました。毎日のように腸内フローラに関する優れた研究論文が発表され、健康科学や医療分野に新しいページが付け加えられています。腸内フローラ研究の老舗である当財団の活動範囲もさらに広くなり、またその役割もますます大きくなると考えます。当財団は、腸内フローラ研究の大いなる発展を願って、これからも広く公益に資する事業活動を鋭意進めてまいります。皆様には今後ともご支援ご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

(2023.6.2)